「よお、起きたか?」
がちゃり、と鉄製のドアが開いて、がらの悪い男が入ってくる。
手には食パン。それは、朝食?
そういえば、わたしは彼に殴られたのだ、と思い出す。
そう、新薬開発の際のデータを渡せと脅されて……断ったら、殴られたのだ。
鉄製のドアには、おそらく錠がかかっている。なかなか複雑な錠。
昨日、たくさん試したけれど、後ろ手をロープで縛られていたせいで、脱出の見込みすらなかった。
「おいおい、今日もまただんまりかよ?冗談もいい加減にしないと、これ使うぞ?」
男は、ひたひた、とわたしの首にナイフをあてる。
怖い…。とても、怖い。
も、わたしは、データを渡すつもりはない。
わたしも研究者のはしくれ。研究した成果を、みすみす奪われたくはない。