目が覚めたら、灰色だった。
しばらくその灰色を見つめて、それが天井だったと気づく。
ここはいつものマンションじゃない。もちろん、大学院の研究室でもない。
かつて、研究室だった場所。もう、使われていない廃ビルだ。
小さな窓から差し込んでくる光からすると、今はおそらく朝。
影の角度からして、九時前くらいだろうか。
「…………っ」
起き上がると、ずきっ、と顔に痛みがはしった。
そっと頬に触れてみると腫れている。おそらく内出血になっているだろう。
なぜ、わたしはこのようなケガを負ったのだろうか、と覚醒しきっていない頭で考える。
ああ、そうか。
わたしは誘拐されたのだ。昨日の朝。
今日は、誘拐されて二日目の、朝。