このあたりは、閑静な住宅街だった。

 この時間は、人通りも車も全くない。

 歩道と車道の境目は白線だけで、車道の中央には右左を区別する車線さえ引かれていない、比較的 細い道だ。


「いまさら離婚できるほど、僕に野心はないよ」

「分かってるわよ」

「出張と言えば、納得して終わりさ」

「それも寂しいわね」

「婚前から海外出張も多かったからね。熱かったのは、出会ったばかりの頃だけだったな…」

「あたしも同じよ。結局、自分の夢を諦めきれなかったの」