「――止めろっ」

「あ!?」


お兄さんの拳が止まった。


誰――


「……チッ」


お兄さんは舌打ちを残していってしまった。


「――あ、お兄さん!」

「んだよ!」

「病院!早くいきなよ!」


あたしがそういうと、お兄さんは目を見開いた。


そんなお兄さんに、頬笑む。


「まだ、間に合うよ。きっと」

「……」


一瞬だけ、悲しそうな表情をした。

口を開きかける。

でも結局、なにも言わずに行ってしまった。


人にはそれぞれ、過去がある。

悲しい記憶がある、寂しい記憶がある。

苦しいからすがってしまう。

逃げたいから使ってしまう。


お兄さんも結局、あたしと同じ。


怖がる理由なんて、一つもない。