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「―――それから、グロルさんと私が付き合い始めるのに時間はかからなかったわ。ふふっあの人ね、ホントに生真面目で不器用な人だったから、ちゃんと正式に付き合い出すまで手も繋いでくれなかったのよー」



 膝の上のゴロ助を撫でながら、リラはくすくすと笑った。






 
 リラとグロルの出会いを語り始めて約一時間。



 隣でゆっくりと思い出を話すリラ



 それを聞いていたネロは、思わず聞き入ってしまっていた。




 
 現在のグロルと言う男は、感情など皆無、国を乗っ取るために影で暗躍してきた犯罪者だ。



 王座をとるためであれば血の繋がった家族すらも利用する。



 自分以外信じない。



 そんな人間なのに。





 少なくとも今のリラの話を聞く限り、その印象は微塵も無い。



 それどころか真逆だ。



 シルベスターとも唯一無二の親友で、彼の王子としての考えにも賛同していた。



 一体何故、何が、グロルをここまで変えてしまったのか。






 ネロが抱いた疑問に気が付いたのか、リラが再び口を開く。



「彼が変わってしまったのは、それから二年ちょっとしたころ。彼は突然、自分から私の元を離れていった」



「それは、何で...」



「...詳しくは知らないわ。彼は言いたがらなかった。ただ、あの人の事だから自分に嘘はつけなかったのね。そう言うところ全部含めて好きだった...今も、勿論...」



 そう言いかけると、リラはゴロ助を抱き上げ、立ち上がる。



 その瞳は窓の外へと向けられる。



 ネロと同じ、深い緑色の瞳は、いつになく力強い。






「ネロ」



「...何、母さん」






「私のお願い、聞いてくれる?」






 生まれて初めての母からの願いごとに、ネロはゆっくりと頷いた。



 開け放した窓からは、気持ちの良い春風が吹き抜け、リラの髪をふわりとなびかせていた。