足早に、出来るだけリラに気取られないように歩く。



 しかしすぐにリラは気づいた。




「あ、グロルさん!...待って!!」



「...っ!」



 早く過ぎ去りたいのに、そんな自分の意志に反して体が反射的に止まってしまう。



 急いで駆け寄ってくるリラ。



 どんどん近づいてくる。



 彼女の甘い花の香りがどんどん強くなる。



 今まで極力彼女を避けてきた分、それはそれは濃厚に、香しく、グロルを誘う。





「グロルさん!」



「く、来るなっ!!」



「えっ...」



「...あ」




 思わず口に出た一言に、はっとする。



 彼女の顔を見れば、ひどく悲しそうな顔をしていた。





(...違うのに......)



 こんな顔をさせたいわけじゃない


 
 自分にも、笑ってほしい



 それだけなのに。



 たった、それだけなのに



 どうして上手くいかないんだろう






「...私、グロルさんに何か気を悪くすることした?したなら言って、お願い...」



「......違う、そうじゃないんだ」






 俺が



 共にいるべき二人の邪魔をしたから





 シルベスターの隣に居ることに慣れてしまっていた



 新たにやって来たリラに受け入れてもらったことに甘えてしまった



 それどころか、俺は、ずうずうしくも



 彼女の隣までも望んでしまった






 リラの笑顔が欲しい



 君に触れたい



 もっと、もっと、近づきたい



 そう...





「好きなんだ」






 思わず漏れた、自分の言葉でようやく、知る。



(...そうか...)



(...俺も、彼女が好きなのか......)



 自分の心に溢れた気持ちの名を。






 遅れて自分が口走ってしまった言葉にはっとする。



 前を見れば、リラが先ほどまでの悲しそうな顔を一変させ、目を丸くさせている。



「グロルさん、今、なんて...」



 だめだ



 この気持ちがバレてはいけない



 リラは、シルベスターが好きなのだ