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その日から、グロルのひそやかな頑張りの日々が始まった。
◇
なるべく怪しく思われないように、いつもの生活を変えることはしなかった。
ただ、
「――教官に呼ばれているから」
「――魔法学の予習があるから」
「――実家の方から頼まれてる仕事があるから」
いろんな言い訳をつけて二人から距離をとるようになった。
始めの頃はそれを「そうなのか」とすぐに納得していた二人だったけど、何日も何週間も続くと流石におかしいと思ってきたようで。
離れるたびに、呼び止められるようになった。
「どうかしたのか」
「何かあったの?」
その優しい言葉が、胸の痛みを強くする。
あの日から消えることのない、胸の痛みを。
今日もまた、二人の元を立ち去る。
最近では食べ終わると何も言わずに立ち去るようになっていた。
もはや、一緒に食べなくてもいいかなとさえ思っている。
ごちそうさまと同時に立ち上がるグロル。
そんな彼にシルベスターは、もう我慢できないと立ち上がった。
「おい、グロル!いい加減にしろ!何だよ最近、お前おかしいぞ!一体何があったんだ」
「......別に、何も」
そう答えるとグロルは、気にかける二人を置いて颯爽とその場を立ち去る。
「ったく、何なんだよあいつ...ごめんなリラ。俺のせいで」
「ううん、でもグロルさん...何で...」
彼の寂しげな背中を二人は、じっと見つめ、
そしてリラは、ある覚悟を決めた。
―――――
その日の放課後。
すべての授業が終わり、放課後をむかえる。
教官に呼ばれて帰りが遅くなっていたグロルが帰路につくころには、外は夕焼け、オレンジ色に染まっていた。
校舎の玄関口にカバンを持って向かう。
時間が時間なだけに、もう生徒は誰も残っていない。
と、思っていたのだが...
(...あ、)
オレンジ色の光が差すそこに、一人の生徒。
リラがいた。
クリーム色のふわふわな髪の毛も、夕日色に染まってる。
久しぶりにちゃんと見た彼女は、やっぱり綺麗で。
またしても胸がズキリと痛む。
シルベスターでも待っているのだろうか。
(...早く、帰らないと)
今顔を合わせるとまずいことになる。
そんな予感がした。