好きな人がいる



 そんな事聞いたことがない。





「なんで知ってるの、そんな事!」



「...やっぱいるんだ」



「っは!言っちゃった...」



「......はは、みんな知ってるよ。君を好きな男子は多いから、見てたらすぐ分かる」





 シルベスターさんなんだろう







 その一言を聞いたグロルは、固まった。



 そう、だったのかと。




(まったく、気が付かなかった...)





 その時



 ズキン、と



 胸に鈍い痛みが走る。



(何だ、コレ......)



 ズキン、ズキンと断続的に訪れる痛み



「えっ...なんで...」



 リラの声が聞こえた。



 きっと「なんで、分かるの」と、照れた様にいうのだろう



 そんなの聞きたくない。



(いやだ...)



 それから逃げるようにグロルはその場を走り去った。







 しばらく走った後、人の来ない物陰に辿り着いたグロルは壁にもたれ掛る。






 思えば、彼女はいつもシルベスターといた。



 昼休み、あの場所へと来るようになったのも王宮の病棟でシルベスターと会って友達になったから。



 廊下で見かけた二人も



 いつもベンチで隣り合いご飯を食べる二人も、



 図書館で勉強をしてたあの時も



 彼女の笑みは、全部、全部、あの王子に向けられたものだったのか。



 

 彼女は



 リラは、



(...あいつが、好きだったんだ)



 



 グロルはずりずりと崩れ落ちる。



 胸の痛みは全然良くならない。





 喜ばしい事じゃないか。



 シルベスターは良い奴だ。



 王子のくせに身分など気にしない。



 お世辞にもいい性格とは言えないグロルを受け入れ、友になってくれた。



 そしてリラも。



 快くまるで今までがそうだったように、



 当然のごとく、自分と一緒に居てくれた。



 笑って名を呼んでくれた。



 二人はよく似てる。



 これでいいじゃないか。



 きっと結ばれるべき二人だったんだ。






 恋愛なんて不合理で意味の無いもの



 興味なんて一切なかった



 だけどあの二人なら



 意味のある恋もあるんだと思える






(......何も迷うことはない、俺はあいつらを応援するんだ)






 グロルの決意の裏で、



 胸の鈍い痛みは消えることはない



 その痛みの名前を知らないグロルは、ただただ耐えるしかなかった。