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三人が学校に復帰したのはそれから一週間後。
始めこそドギマギしていたグロルだったが、普段通りのリラの様子に、ようやく元の調子を取り戻し始めた頃だった。
まさかこんな一日になるとは思いもよらなかった。
◇
いつものように昼休みになり、中庭に向かう。
「おう!グロルやっときたー」
「今日は遅かったねグロルさん」
「...ああ、途中教官に呼び止められてな」
本当に何も変わらない、
いつも通りの日だった。
「リラさん、ちょっといい?」
突如三人の間に落とされた影。
顔を上げた先には見覚えのない男子生徒。
しかし名を呼ばれた本人のリラは見覚えがあったようで。
「どうしたのアベルくん、用って私に?」
「そう。少しでいいから」
「...でも、私まだ食べて...」
「いいからっ!」
何やら必死な様子の彼は、しぶるリラの腕をぐっと掴んで引っ張った。
そのしぐさにグロルはぴきりと怒りをあらわにする。
「おい」
ガシッ
「うわっ!!」
アベルと呼ばれた男の、リラを掴んだ方の腕をグロルはひねり上げた。
「うっ...っ!!」とうめき声をあげ必死に痛みを我慢するアベルを、冷たく睨み付ける。
「...ファーナーに何の用だ...!」
怒りのあまり体内から漏れ出る闇の魔力の影響で、アベルに触れている個所から魔力が吸い取られていく。
青ざめていくアベルを見て、リラは咄嗟に「やめてっ」と駆け寄った。
その声を聞き、グロルはしぶしぶひねり上げていた手をはずした。
「グロルさんいいの。私ちょっと行ってくるね、先に戻ってていいから」
ごめんね
そう言い残し、リラは顔を先程までの元気をなくしフラフラとするアベルと共に、中庭を抜けて校舎の裏側に回っていった。
(...何だったんだあいつ...)
グロルは不審そうに眉を顰めた。
「...誰だ、あれ」
「ん?グロルは知んないの?この前の試験試合にも出てた、アベルだよ。木のクラスの首席。準々決勝まで来てたけどねー誰かさんにコテンパンにやられたみたいだよ」
その『誰かさん』こそ、グロル本人なのだが、よほど興味のかけらも起こらなかったのだろう。
興味のない人間は全くと言っていいほど覚えていないグロル。
クラスの中の大半の人間すら認識していないのだから、しょうがない。
リラの事に関しては、さして気にしているふうでもないシルベスター。
しかしグロルはまだ不安そう。
もしかしたら、何か酷い事でもされているのではないか
さきほどの無理やり連れて行こうとしていた画が頭にこびりついてしまい、そんなことばかりが頭をよぎる。
そして
居ても立ってもいれなくなったグロルは、立ち上がった。