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 (......ん、)





 ツンとする薬品の匂いと、開いた目の隙間から差し込む柔らかい光で



 グロルはゆっくりと目を覚ました。




「お、起きたかグロル!」



 声がする方を見ると、ベットの脇にシルベスターがいる。



 元気そうなその姿にグロルはほっと息をついた。



「......シルベスター、無事だったのか」



「まあな!どっちかというとグロルの方が大変だったみたいだぞ」




 リラに感謝するんだな



 その一言にグロルは目を丸くする。



「...ファーナー、か?」



「ああ。リラがお前を救ったと言っても過言じゃないからな!あとでお礼言いに行けよ、この病棟の八階に居るから」



 状況を飲み込めないグロルは怪訝そうに眉を顰める。



「......何故ファーナーが、病室に居る?」



「ん?...あ、そっか。グロルは知らないのか
それがなぁ───」




そのあとに続けられた真実にグロルは目を丸くするのだった。











八階の、リラがいると聞いた病室の扉を開ける。



その中で彼女はスースーと寝息を立てていた。



その穏やかな寝顔に、グロルはそっと、手を伸ばす。



柔らかく白い頬は、貧血になったように少しだけ青白い。





シルベスターに聞いたところによると、



血を流しすぎたグロルは輸血が必要だったのだが、輸血用の血液のストックが底をつき輸血ができない状態だった



闘技場に集まっている人から採血を願い出たが、魔法使いの場合は少しばかりややこしい。



魔法使いの血液には魔力が混ざっているため、血液の型だけでなく魔力の種類まで一致しないと輸血に使えないのだ。



だから、当てはまる魔法使いを見つけるのに時間がかかると予測できる。



その間にもグロルの血は流れ続けている。



止血をしなければ。



そう判断したリラは魔法を発動させた。



細胞の復元魔法。



光の魔力を扱う魔法使いなら誰でも使える傷を治す魔法であり、医療現場で最も基礎となる魔法だ。



この魔法は確かに誰でも扱えるのだが、上級者になればなるほど精度が上がる。



下級者は体の表面に出来た、目に見える範囲の傷を大まかに治癒するだけ。



 内側の傷が治癒できていないその状態では、再び傷が開いてしまう。



 しかし、現場に立つ医師たちなどその魔法を極限にまで高めた上級者達であれば、血管一本一本の細胞のひとつひとつまで正確に治癒・復元することができる。





リラは学内でトップ、それどころか実際に現場に立つ医師たちが舌を巻くほどに、それらの技術や精度が高かった。



そんなリラの努力もあって、輸血に必要な血液が集まった頃には、グロルは傷は完璧に治癒されていた。



その代償として、リラは魔力をほぼ失い、その場で倒れてしまったわけなのである。