歓声が上がる闘技場。



 その大きな音を聞きながら、リラは祈った。



 彼らはきっと手加減なんかしない。完全に勝利するまで戦うだろう。



 どちらが勝とうがどうでもいい。



 ただ、お願いだから、




(酷いケガだけは、しないで......!!)





 幸い、今のところ、大きなけが人は出ていない。



 彼らがそうならないことを祈るのみだった。









 しかし、拮抗した二人の試合は、突如終わりを告げる。



 



 リラたち医療チームが集まる治療室



 そこへ患者を運ぶ激しいスレッチャーの音が聞こえてきた。



 治療室の扉が勢いよく開かれ、運ばれてくる患者



 シルベスターとグロルだった



 リラは顔を真っ青にさせる。



 二人は相討ちだったのだ。最後にはなった二人の魔法は互いにぶつかり、暴発した。



 そして二人は倒れてしまったというわけである。







 先に来たのはシルベスター。



 スレッチャーの上でぐったりとしている。



 おそらく闇の魔力にあてられた為、魔力が無くなってしまったのだろう。



 王子のその状況に焦った軍の医療班は、総動員でシルベスターの治療にあたる。



 当てられた魔法の種類によってはすぐに処置を施さなければ死ぬ危険性もある。



 当然の処置だった。



 軍トップの医者たちに囲まれ、奥の処置室に運ばれて行くシルベスターをリラは心配そうに見つめる。



(...大丈夫、皆さんに任せれば...!)






 そして



 再びスレッチャーの音がし、続いて血だらけグロルが運ばれてきた。



 そこに居合わせた医療チームのメンバーが顔を引きつらせ、思わず口を手で押さえるほどに酷い有様だった。



 リラは息を呑み、急いで駆けつける。



「グロルさんっ!!グロルさん、しっかりして!!」



 意識の有無を確認しながら、素早く傷を診ていくリラ。



 シルベスターのように命に関わるほどの傷は無いものの、とにかく出血が多い。



 このままだと出血多量の二次災害で、魔力低下が起こり最悪の場合死に至る場合もある。



「ぼうっとしないで!!早く輸血の準備!」


「...っは、はいっ!!」



 あまりの血の多さに呆然としていた他のメンバーを叱咤し、リラは指示を出す。



 このくらいなら学生であるリラたちも研修等で経験済み。



 普通にやれば問題ない



 しかし



「リラちゃん!どうしようっ輸血用のパックが足りないわ!」



「えっ...!非常用の冷凍ストックも!?」



「ああ、フィンス卿の血液型はさっきの患者で使っててもうない!」




 予想外の事態に現場はパニック。



 この場に軍の医療班はいない。



 リラは考えた。



 どうにかしなければ。



「......今からすぐに処置室内の先生たちに連絡を取って。その間、今あるだけの輸血をしましょう。手が空いている貴方は、試合会場に行ってグロルさんの血液型と同じ血液を闇の魔法使いから採血してきて。その間私はできるかぎりのことをする」



 的確な指示。



 それを受けた各メンバーはすぐさま動き出す。



 血に濡れたグロルの顔を見つめ、リラは覚悟を決めた。





(私が...絶対なんとかしなきゃ、彼を助けなきゃ......!!)