図書室で勉強していた時もそうだった。



「私がコーヒーを買ってきた時、グロルさん『すまん』って言ったの覚えてる?」



 彼はいつもそう。



 王族なのに何故だか全ての事に申し訳なさそうにしている。



 もっと堂々としてていいのに。



「普通そこは『すまん』じゃなくて、『ありがとう』なの。グロルさん何も悪いことしてないのに、すぐ謝っちゃうんだから!絶対に直した方がいいわ」



 もっともなその言い分に、グロルは確かに反省しつつ下を向く。



 そんなグロルの顔をリラは両手でむぎゅっと挟んで、無理やり上を向かせた。



 顔を上げたグロルの目の前にはドアップのリラの顔。



 グロルは顔を真っ赤に染める。



 ドアップなのに綺麗で、怒っているのに可愛らしい彼女の顔を目の当たりにしてそうならない方がおかしいだろう。



「っ!!」



「下向かないの!私の目を見て!」



「......う、」



「人と話す時は相手の目を見て話すって習わなかった?...ちゃんと目見てよ、じゃないと、悲しくなる...」



 悲しくなる



 その言葉にグロルは思わず固まった。



(......悲しく、なるのか...)



 予想外のセリフにだったのだ。



 そんな事今まで一度も言われたことなかったから。



「それに、私グロルさんといるのつまらないなんて言ったこと一度もないじゃない」



「だ、だが、シルベスターと違って大した話も...」



「話が面白いから一緒にいるんじゃないの!一緒に居たいからいる、それだけよ」




 それに




「私、嫌いな人と一緒に居れるほどお人好しじゃないわ」



「......え、それは...」



「好きよグロルさんの事、シルベスターくんと同じくらい
 だから一緒に居たくないみたいなこと言わないで...」



 お願いだから。



 懇願するような彼女の言葉と、瞳に、グロルは何も言えなくなってしまう。



 なにより、リラが、自分の事を好きだと言ってくれたことがとてつもなく嬉しかった。



 自分の中に湧き出る喜びに戸惑いながらも、グロルは頬を緩める。



 


「......ごめん、気を付ける」



「ん!分かればそれでよい!」



「...ははっ上からだなあ」


 


 その時初めて、グロルは笑った。



 リラの前で、不器用に。






 けれど苦笑いにも近いそれはとても美しくて、





 リラの目に色濃く映し出されたのだった。