そんなある日―――






 移動教室の為、一人廊下を歩いていたグロルは、窓の外、向かい側の校舎に人影を目にした。



(......あ、...)



 見覚えのある二人



 リラとシルベスターだった。





(...笑ってる)



 窓の外に見える二人は笑っていた。とても楽しそうに。



 何を話しているのか気になるほどに、二人は顔を見合わせて笑みを浮かばせている。






 それを見ていたグロルは、なぜだか胸が痛んだ。



 チリチリと焦げ付くような、小さな痛み。



(何なんだろうか...これは...)



 手を伸ばし、自身の痛む胸をかく。



 だけど、どんなにやってもその痛みは取れなくて






 グロルは逃げるようにその場を立ち去った。








 ◇








 その日の昼



 


 いつもの中庭にリラが向かう。



「あら、グロルさん。シルベスターくんは?」



 ベンチにつくと居たのはグロル一人。



 腕を組み深刻そうな顔を浮かべ、座っている。



「...シルベスターは補習だ、今日は来ない」



 その言葉を聞いたリラは目を丸くした。



「えっテスト上手くいったんじゃなかったの?」



「......あのバカ、名前を書き忘れたらしい」



「まあ!!...ふふっシルベスターくんらしい」



 

 





 グロルの向かい側に座り、リラは食事を始める。



「いただきます」



「......」



 その正面で、グロルは自身の食事には手も付けずにリラを見つめていた。



 それに気が付いた彼女は手を止める。



「どうかしたのグロルさん?」



「......俺は、席をはずそう」



「え、」






 カチャン――




 突然の申し出に、リラは持っていた箸を思わず落としてしまうほど驚く。



 さきほどのシルベスターの補習の件の時とは比べ物にならないほど動揺しているのは見た目にも明らかなのだが、グロルはずっと下を向いているので気づいていない。



「...君は、他の友達と食べるといい」



「どうしたの?...急に、なんでそんな事...」



 そう問いかけるリラに、グロルは小さくため息をついて答える。





「......シルベスターがいないとつまらないだろう。俺はあいつと違って大した話もできないし、相槌を打って笑うこともできない」



 だから...と言って黙り込むグロル。



 そんな彼を見て、リラは可愛い顔をムッとさせて怒った様に席を立った。



 ああ、別の席に行くのか、と思ったグロルは下を向いたまま。





 しかし



 グロルの予想に反し、リラはそのままグロルの傍にやって来て、隣に座ったのだ。 



「!!なっ...!」





 グロルは驚く。それはもう、心臓が止まるかと思うほど。





「グロルさん!」



「っ!!...はい...」



「私、いま怒ってるの。何でか分かる?」



 もちろん、何のこっちゃ分かるわけもなく。



 眉間にしわを寄せ、頬を膨らませた彼女は、ずいっと身を乗り出しグロルに近づいて言った。





「まず、何かあるなら私の目を見て話して!それに、あんまり自分の事を卑下しない!グロルさんの悪い癖よ!!」