「...んはっ!!寝てた!!」



 テーブルに突っ伏していたシルベスターが、勢いよく顔を上げる。



 少し老けたかと勘違いしてしまうほど顔がくしゃくしゃだ。



 そんなに数学が嫌だったのか。



「ふふっ、おはようシルベスターくん」



 向かい側からリラが優しく笑いかけながらコーヒー差し出す。



「んんー頭がくらくらするーー」



「ほら、コーヒー買ってきたよ飲んで」



「リラあ、ありがとうーー!」








 最近、リラと過ごす時間が増えた。



 それまでグロルとシルベスターの二人で行動をする時間が長かっただけに、彼女の存在が学内に知れ渡るのに時間はかからなかった。



 シルベスターいわく、彼女はもともと有名人だったらしい。



 主に男子生徒の間で、とても可愛いと。



 笑顔が絶えず明るくて、可愛くて、おまけに頭もいいとなるとモテるのも致し方ないように思えるが、今回の事で余計に名が知れ渡っているようである。



 今も。



 グロルがチラリと周りを見渡すと、図書室のいたるところに男子生徒がいる。



 というか男子生徒しか、見当たらない。



 自分たちが座っているテーブル以外は全て埋まっているし、本棚の陰からも何人も顔をのぞかせている。



 リラを狙う男なのか、はたまた王子であるシルベスターにお近づきになろうと試みる貴族なのか。



(何なんだ、一体...)




 グロルが優秀な番犬の様にピリピリとした警戒心を出していることにも気づかず、のんびりとコーヒーを飲み、ほっこりとする似た者同士のリラとシルベスターなのだった。