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──それはグロルとリラの

小さな小さな恋物語──














フェルダンで唯一の魔法学校


その中等部校舎の中庭。



花や草木で鮮やかに整えられたその場所には、白いベンチとテーブルがいくつか備えられている。



日当たりもよく爽やかな風も吹き抜けるそこは、学校内で昼食をとるのに一番人気の場所だった。



毎日のようにその場所を求め争奪戦が起きるのだが、唯一、一箇所だけ生徒が誰も近寄らない席がある。



なぜなら、そこに座る人が決まっているから。




フェルダン王国第一王子シルベスター・フェルダン


そして、王族四大分家フィンステルニス一族長男、グロル・フィンステルニス




この二人の王族だ。



当時十五歳の二人は、身分からしてやはり別格だった。



いくら平等社会の学校といえ、人々は無意識に彼らを意識し、幼心に近づいてはならないと感じてしまう。



この、一つだけ誰も寄り付かなくなったベンチが、顕著にそれを表していた。



良くいえば特別扱い、悪くいえば避けられている。



だからと言って、別にどうするということでもない。



身分というものが存在している時点で、そうなってしまうのは仕方の無いことなのだ。






今日も彼らはそこでお昼を食べる。



「グロル、それ食べないのか?おいしいのに......」



「......ああ」



見かけによらず、痩せてるくせに大食らいのシルベスター。



食の細いグロルがデザートを残しているのを見つめて、物欲しそうにヨダレを垂らしている。



王族の学内での昼食は、王宮に使えている料理人が専任で作るのが普通だ。



先生も特別につけられる。



しかし、シルベスターはそれらすべてを断った。



元々身分制度を快く思っていなかったシルベスターは、学校にいる間のみ、そのほかの生徒と全て同じよにして過ごすと言い出したのである。



初めこそ難色を示した大臣たちも、シルベスターの父、当時の国王からの一声ですぐに意見を一変させた。



当然、王家フェルダンと分家のフィンスには、同じ王族と言えど従属関係が成り立っているため、シルベスターが皆と同じように学校生活を送るなら、グロルもそうするしかない。



現に今も、グロルの手元にはシルベスターと同じ、学食のご飯が揃えられている。



しかし彼は、身分に従い、シルベスターと同じようにしているわけではなかった。



グロル自身が、シルベスターの意見に純粋に賛同し、同じようにしていたのだ。




「......デザート、いるか?」



「いいのか!!ありがとうっ!」




顔を輝かせてデザートを頬張るシルベスター。



そんな友を優しい笑みで見つめるグロル。





当時のグロルという男は、



無口で愛想がなくて、少しばかり怖い顔をしていたが



ただ不器用で勘違いされやすいだけ



笑うことだって出来る



心の優しい男だった。