「まだ若いのに死ぬだなんてはやとちりだね──なんて、説教じみたことを言いにきたわけじゃない」


 どうやら、目の前の私を言葉によって生かしている人物は、死のうと思っている私を引き止めにきたわけではないらしい。


「“本当に死ぬのか”を見に来たんだよ」

「……?」


 それは、どういう意味なのだろう。

 私以外にも自殺をしようとした者がいて、いざ死のうと思ったら怖じけづいて死ねなかった……そんな人物が今までに何人もいたということなのだろうか。


「──君はさ、“人間失格”っていう言葉を知ってる?」


 今の状況とは関係のないような唐突の質問に、思わず顔をしかめる。

 確か、小説のタイトル……だっけか。人気なのか映像化されていたりするけれど、詳しくは知らない。興味もない。


「“何”を基準として“人間失格”なのか……考えたことはあるかな?」


 ない。


「“人間失格”があるのなら、“人間合格”はあるのか。じゃあ、“人間合格”とはなんなのか。何をもって“人間合格”なのか……」


 気のせいだろうか……すっと瞳を細めた目の前の人物は、ぞっとする何かを秘めているように見えた。





「──そもそも、“人間失格”や“人間合格”は、誰が決めるのか」