ろくに愛情を知らない私は、学校で軽いいじめに合った。

まぁ無視程度で済んだから、いじめられていることをお父さんが知ることはなかった。




『あたし、河西彩愛!
よろしくね、胡桃ちゃん』




初めて私に手を伸ばしてくれたのが、アヤメだった。

アヤメは何でも私に話してくれた。

対して私は何も話すことが出来なかったけど、アヤメはそれで良いと言ってくれた。

無理して話す必要など、どこにもない…と。




『実はね、あたし好きな人が出来ちゃった!』




同じクラスの望月桜太に恋をしたアヤメ。

私は友達…いや、親友として応援してあげたかった。




『……あたしは、白井真幸といいます』




恥ずかしそうにはにかみながら、別の名前を名乗るアヤメ。

目の前に立つ望月桜太は、ポッと頬を赤く染めていた。

もし。




もしここでアヤメが本名を名乗っていたら、きっと違っていたはず。





『胡桃ちゃん…。
あたし、あたし…とんでもない嘘ついちゃった…!』





アヤメは見てしまった。

望月桜太が、本物の白井真幸と並んで歩いている姿を。

望月桜太を想い泣いているアヤメを、私は傍にいることしか出来なかった。