手に持っているのは、お母さんが好きなケーキ屋の箱。
離婚した今でも、どうやらお父さんはお母さんのお見舞いに来ていたらしい。
「幸恵の見舞いに来たのか。珍しいな」
「…通りすがったから」
「来なさい。案内してやるから」
看護師さんにお礼を言い、私はお父さんの後を追いかけた。
ずっと私は、お父さんとお母さん、それに双子の姉であった真幸に
私という存在をないがしろにされてきた。
何をするにも真幸が優先され、私は存在を消された気分だった。
お父さんとお母さんは私と違って可愛い真幸ばかりを可愛がり、
真幸も私を庇うことはなく、優越感に満たされた笑顔をいつも浮かべていた。
お父さんとお母さんが離婚する時も、そう。
真幸を引き取るのは揉めたくせに、私のことは全く揉めないで。
女の子はお母さんが引き取る、となり、お母さんが勝った。
残されたお父さんは、同じく女の子であった私を引き取った。
それまでお父さんは、年末年始に付き合いと称した飲み会には参加するものの。
他の飲み会や、会社仲間とのご飯には一切参加せず、早めに帰宅していた。
だけど今は、帰宅時間がかなり遅い。
たまに香水の香りもスーツにつけて帰ってくる日もある。
真幸じゃなくて、ごめんなさい。
私はずっと、そう考え生きてきた。