「……どうして胡桃さんは、河西彩愛だと嘘をついたんですか」
「あんたが覚えているか確かめたかったから。
返却期限を過ぎたあんたを救ったのは、アヤメだってことを、覚えているかどうか。
結果は、あんたが1番知っているよね?」
……胡桃さんは、本当に友達相手な人だ。
ずっと家族からないがしろにされていたはずなのに。
「今、アヤメがあんたを好きかどうかはわからない。
だけど、覚えていてほしい。
小学生の時、アヤメは間違いなく、あんたに恋をしていたって事実を」
友達…いや、親友のため。
胡桃さんは俺を呼び出した。
「…復讐は、僕にしないんですか」
「しない。
あんたに私のコトをわかってもらったって、味わってもらったって、意味がない。
私は今日、アヤメの気持ちを伝えに来ただけだよ」
「……ごめんなさい。胡桃さん」
「謝る相手は、私じゃないでしょ」
「……はいっ!」
「あと、敬語やめて。
わざとらしすぎて、気持ち悪い」
「……わかった。
本当にありがとう、倉田」
俺は踵を返し、走り出した。
しかし途中で、引き返し、ポケットの中から、授業中書いた紙を渡した。
「許せないと思う。
俺だったら一生許せない。
だけど、後悔しないように生きてほしい」
「…説得力があるわね」
紙を受け取った倉田は、微笑んだ。
俺はもう1度お礼を言い、夕焼け公園の階段を駆け下りた。