「……どうして、あたしの名前、使ったの?」
きっと私たちが中学生の頃を言っているんだわ。
「……望月に、アヤメを覚えているのか確かめたかったから」
誰もいない、クレープだけがポツンと置かれた空間に向かって笑う望月。
イケメンなのに変な行動を、周囲の老若男女は変な目で見ていた。
私もその中の1人だったけど、私は話しかけた。
話しかけた時、ふとちょっとした悪戯心(いたずらごころ)が湧いた。
小学生の頃、一途に望月に好意を抱き、名前を偽ってでも望月と話したかったアヤメのことを。
アヤメは忘れてしまっていても、望月は覚えているのか確かめたかった。
だけど…結果は予想通り。
望月は河西彩愛という名前に、反応を示さなかった。
初めて聞いた、とでも言いたげな顔だった。
望月桜太の心を占めるのは、白井真幸。
確信が出来た。
「覚えていたら…良かったのにね、アヤメ」
アヤメは顔から色という色を全てなくし、今にも倒れそうな表情をしていた。
私はその姿を、目に焼き付ける。
親友を、ここまで傷つけたのは、誰?
ひとりぼっちだった私を助けた親友を、ここまで哀しませたのは誰?
私の気持ちが、徐々に歪んでいく。
ずっと、必要とされていなかったから。
初めて私を見つけてくれた彼女を――守りたい。
「……大丈夫だよ、アヤメ」
聞いているかわからないけど。
私はそう、呟いた。