小さく、背中にかかる何かが乗る感覚。
さっきまで隣にいた猫が、いない。
「猫まであたしに乗せないでくださ~い!」
「あ?
良いから黙っていろって何度言えば良いんだ」
「にゃ~」
「じゃあ、あなたもさっさとどいてください!
それと猫も!」
「……そうだな。このままじゃ遅刻する」
「あたしの遅刻は勝手にしろって言うくせに、自分の遅刻は気にするんですね!?」
「は?当たり前だろ。
お前の遅刻なんて俺に関係ねぇし」
スッと軽くなる背中。
恐る恐る立ち上がり、あたしは「え?」と声を漏らした。
一言文句でも言ってやろうと思っていたのに。
そこには誰もいなくなっていた。
塀の上も見てみるけど、誰もいない。
あの真っ白な仔猫も。
…どこ行ったんだろう。
まるで、誰もいなかったみたい。
「…つーか遅刻ー!」
あたしは急いで走り出した。