デート中はふたり分のクレープを購入し、
ふたり分の席で目の前にクレープを置き、
誰もいない空間に向かって笑いながら食べた。
周りの奴らも店員も、まるで危ない人を見るような目で俺を見た。
お蔭で人は寄ってこない。
俺は幸恵さんの目が届かない場所でも、演技をしていた。
真幸を、失いたくなかった。
『……馬鹿みたい』
帽子を深く被り、顔を隠した見知らぬ女。
『どうしてそこまで、あの人のためになっているの?
あの人はあんたの母親じゃないでしょ?』
『……お前に何がわかる?』
『誰もいない場所に向かってにこにこして。
変な人よ、止めた方が良いわ』
『事情も何も知らないくせに、入ってくるな』
『知ってるわ』
『は?』
『白井真幸のことも白井幸恵のことも、望月桜太のことも』
表情の見えない女に、初めて恐怖心を抱いた。