「今日は早めに帰ってくるのよ?」


「はーい」


「気を付けてね、行ってらっしゃい」


「行ってきます」




あたしは制服に着替え鞄を持ち、扉を開けた。

そしてあたしの胸辺りまでしかない門を開けようとして、気が付く。

ポストの前で本を読んでいる、男性に。



寝起きですか?と聞きたいほどボサッとした黒髪。

なかなか大きな黒縁眼鏡。

着ている服も何だかヨレッとしていて…。

正直言って、かなりだらしなくて、ダサい。



あたしが品定めしているのに気が付いたのか、男性が振り向く。

見た目はダサいけど、眼鏡の奥の瞳は黒くてなかなか綺麗だった。

コンタクトに変えて髪型をキチッとして、服装もピシッとすれば、良い男性になりそうだ。

そう考えると、とても勿体ない。





「……アヤメちゃん?」



小さいけど優しい声で、男性は話しかけてくる。

…ってか何であたしの名前!?




男性は驚き固まっているあたしを見てにこっと人懐っこい笑顔を浮かべると、
本を閉じて頭を下げた。

…誰ですかあなたは。