しばらくして私が落ち着いた頃・・・秋宮さんはおもむろに赤いスカーフを解いた。
「あの、本当に申し訳ないんですけど・・・家にまでこんな恰好していけないので」
「あぁ、着替えてどうぞ。私は食材片付けるのに後ろ向いてますので」
「・・・ありがとう」
へにょん、と人懐こい笑顔を見せたその人に背を向けて、買い物袋を漁る。
卵に魚に鶏肉に、醤油のボトルを二本・・・あ。
「化粧落とし、いります?」
「・・・・・・お願いします・・・」
背中を向けたまま、わかりましたと後ろへ声を投げた。
衣擦れの音が聞こえるからまだきっと着替えているのだろう。
一つの空間でこんな状況。
恥じらいがないかと言えば嘘になるけど・・・出会いが出会いだし、女の子みたいに可愛いから・・・。
「持ってくるので、待っててください」
「はい」
整頓も終わって空になった袋を一纏めにして縛ってしまう。
エコバッグを持っていくのを忘れたけれど、この袋もあったらあったで役に立つので嬉しかったりする。結局使わずに溜まることもあるのだけれど、無いと困るのだ。
厨房から扉を抜けると、自宅へと続いている。
そこから更に二階が私の部屋。机の上から化粧落としのシートの箱を丸ごと持って、途中で新しいタオルを引っ掴み、店へと急ぐ。
・・・秋宮さんはいい人そうだとは思うけれど、一応見知らぬ人なので一人で置いておくのは不用心だろう。
厨房へ戻ってくると、ブレザーの制服に着替え終えた秋宮さんが、椅子に座りながら店内をきょろきょろ見回していた。
「戻りました。はい、どうぞ」
「・・・相澤さんて、おいくつなんですか?僕は高校3年です」
「17、高校2年です」
年上だったのか・・・。
顔が幼いし男にしては身長も低いので、年下か同い年くらいだと思ってた・・・。
でも年上と思うと、確かに落ち着いているしそう見えなくもない・・・気がする。
「しっかりしてますね」
「・・・・・・秋宮さんも、なんだかしっかりしてますよね」
「へ?」
「高校生の割に、すごく雰囲気が大人びているというか・・・姿勢がいいし、言葉遣いも綺麗です」
そうかな、と首を傾げながら、私が差し出すタオルと化粧落としを受け取った。
「洗面所はあそこです」
「なにからなにまで、ありがとうございま・・・」
・・・・・・きゅう。
その空間に響いた音に、二人で沈黙してしまった。
「・・・」
「・・・」
「・・・お腹すいてます?」
「・・・・・・ここのお店のメニュー見てたら、おいしそうで・・・」
顔を真っ赤にする相手に吹き出しそうになるのを堪えた。
秋宮さんはそれを受け取りつつ、片手で顔を覆いながら、とぼとぼお手洗いへと歩いていく。
・・・かわいい人だ。
「はぁ・・・・・・よし」
ひとつ気合を入れて、厨房の角に掛けてあったエプロンを掴んだ。