流石にそのまま床に正座させている訳にもいかず、カウンター席の椅子をそっと引いて、どうぞ、と声を掛けた。

座ったかどうかを確認せずに、私は投げっぱなしだった買い物袋を持って、カウンター内の調理台へ向かう。
・・・買い物袋の中身を出しながら、チラリと横目で見ると、申し訳なさそうにおずおずとカウンター席へ座っているところだった。



・・・・・・・・・・・・それにしても。




「可愛いですね!!」

「やややややめてください!!!」




両手で顔を覆って、さらにテーブルに顔を伏せる。
真っ赤になった耳を見て、やはり可愛い人なのだと、何度思ったか分からない感情を何度でも抱いてしまう。


「・・・僕、秋宮咲夜と申します。差し支えなければ、お名前を教えていただけますか?」


綺麗な言葉遣い、格好はアレだけど真っ直ぐ伸びた背筋。


「私は、相澤みのりです。ここの相澤定食の娘です」


相澤さん、と小さくポツリと繰り返して、秋宮さんは座っていた席から立ち上がる。


「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」


流れるような動作で頭を下げた。
この人、一つ一つの所作が柔らかくて綺麗。そのお陰で、「女の子」に拍車が掛かっているのだ。


「どうして、うちの学校の制服を着てるんですか?」

「ぅ・・・」


小さく声を漏らしてから、席に座り直して・・・再びテーブルに顔を伏せた。


「・・・が、・・・」

「ん?」

「・・・友人が、姉の制服を持ちこんで・・・無理矢理、着せられて・・・・・・」


可哀想に。


「っ、男の人に追われていたのは、どうしてですか?」

「・・・男でもいいから、付き合ってくれ・・・と、他クラスの知らない人に、迫られまして・・・」


まだ笑ってはいけない。顔を背けながら、手の甲で口元を抑える。
こ、この人にとってはとても大変なことだったのだか、ら・・・っ、ふ・・・。



「・・・・・・・・・・・・あの、笑ってません?」

「笑ってませ、ブファッ!!」

「ちょっと!!相沢さん?!!」


真剣な話です・・・!!と顔を真っ赤にして言う秋宮さんを、見ていられなくなって顔を伏せた。
必死に息をして落ち着こうと深呼吸を繰り返して、何とか口を開く。


「はぁ・・・それは、本当にたっ、ふ・・・大変でしたね」


吸ってはいてを繰り返しながら落ち着いていると、じっとこちらを見てくる目とぶつかった。
すると、手に持ったそれを持ち上げて・・・。


「・・・・・・ウィッグとカチューシャまで用意されてたんです」

「ひ、ふ・・・っ!!!」


明らかに笑わせにかかってきている。
でも失礼なことには変わらないので、ぷるぷる震えながら必死に堪えた。

いやもう、「堪えている」ということ自体が「笑っている」ということなので手遅れなのだけれど・・・。