部屋に入るなり玄関で千佳は立ち止まり、家族はいないのかと質問してきたのに対し俺は一人暮らしだから、と返事をして千佳の背中を押す。


こんな近くに、しかも俺の部屋に千佳がいるなんて信じられないまま俺はキッチンに向かう。


立ち尽くしている千佳に適当に座ってと声をかけて冷蔵庫の中から食材を取り出す。


昔はよく時間があれば母さんの手伝いをしていたから一応家事全般できる。



相変わらず千佳は警戒しているのか、キョロキョロと部屋を見渡していた。


「なにこれ。かわいい〜」

なんとなくだけど、千佳の声が聞こえた気がしてカウンターから顔を覗かせると千佳はテレビの横に飾ったヒヨコの置き物に向かって微笑んでいた。


こういうの、好きなのかな。



こうやって見ると、やっぱり普通の女子高校生だ。



あの悲しみと寂しさに揺れる瞳の原因なんて全く見当も付かなかった。