「ユイが。
逃げるからだろ? 名前くらい呼ぶって、普通」



踏み出していた足を戻しながら、ヒロは呆れたようにあたしを見上げた。


階段の上にいるあたしの位置から
手を伸ばせば彼に触れられる。




その距離で、あたし達は向き合っていた。




「そっか。そうだね……ごめん」




って、素直に謝ってしまってから。
あたしはハッと顔を上げた。




「って、そうじゃなくって!」


「…………」





そうじゃないよ……。

だって。



驚いて、目を見開いているヒロから視線を落とす。




今まで

目を覚ましてから


あたしのこと、そんなふうに呼んだことなかったくせに。




痛い。
ずっと、心の奥が痛いの。


トゲが刺さったみたいで
チクチク痛くて
とれなくて。



抜け出せない。







ずるいよ……。


曖昧にして……。






「ふッ……う……うぅう」