え……なんで……。
「……」
見覚えのある顔に、息が止まるかと思った。
固まったあたしに気づいた奈々子が、あたしの顔を覗き込んでからその視線の先を追った。
「あ、いたいたぁ! ユイちゃーん」
「……」
うそ……。
真っ黒な長い髪。
艶のある、その髪をなびかせて。
通りすぎる人を虜にさせて。
楽しそうな笑顔を浮かべて、あたし達のとこに駆け寄ってくるのは……。
「……千紗さん?」
奈々子が驚いたように、ポツリとそう呟いた。
だけど、あたしの視線はそのもっと後ろ。
そこに釘付けになってしまって
まわりの音が消え去ってしまって……
世界が止まったように感じた。