「来未とは…どんなご縁で知り合いに?」


燗をつけたお酒を猪口に注ぎながら母親が聞いた。
話してもいいか迷い、ちらっと彼女の方を振り向いた。

頬を染めた彼女が頷いた。それを確認して、母親の方を見た。


「私宛てに本の感想を送ってこられたのが一番最初のご縁です。美しい文字で書かれた自分の名前に、思わず見惚れてしまいました…」


「来未は書道の師範免許を持っていますからね」

「そのせいで道も踏み外しましたけど…」


「お兄ちゃん、それは言わないように!」


母親は慌てるように声をかけ、ちらっと孫の顔を見た。
鍋の中を覗いている瞳は、大人達の言葉には興味もない様子だった。


ほぅ…と安堵した母親は、自宅で作られた酒を「もう一杯どうぞ」と注いでくれた。


ほろ苦い味の地酒は、ゆっくりとした速度で胃袋に落ちていく。
その美味しさに驚きながら、頑固そうな父親の表情に目線を戻した。


「…美味しいお酒ですね。私は普段ビール専門ですが、こうして丁寧に作られたお酒の味はやはり違うと思います。大切に育ててこられた娘さんを心配されるお父さんの気持ちと同じく、深い味わいがあると思います……」


世辞でも何でもなく、本心を語った。
父親はふん…と鼻息を荒くして、まんざらでも無いような表情を見せた。



「今夜、ここへ伺ったのは、一つだけお願いがありまして…」


姿勢を正して前を向いた。