いつから?と、問われないことを願いながら自己紹介をした。
人間性を確かめるような眼差しをしていた彼女の父親は、側にいた女性を紹介してくれた。


「母親の祥子(しょうこ)です。貴方のことは、今日初めて来未から聞いたそうで……。遠い所まで、ようこそこられました」


仕方のない様な感じで頭を下げられた。
その人に合わせる様に、こっちも深々とお辞儀をした。


「いきなり押しかけて来ましてすみません。忙しくて、なかなか時間も貰えないものですから……」


「今回だけ特別だぞ」と、電話口で言われた言葉を思い出した。

「遠恋の恋人の親に挨拶をしに行きたい!」と、切羽詰まった声で話したのが功を奏した。


「そんな相手がいたのか…」と呆れられた。
「仕事が恋人なのかと思っていたよ…」と面白そうに笑われた。



「どんなお仕事をされているんですか?」


彼女の兄は、よく似た顔立ちで聞いてきた。

鍋物には火が入れられ、グツグツ…と煮え立つ音がしている。


「都内の小さな出版社で編集の仕事をしております。編集長が大学の先輩で、色々とよく面倒を見てくれるのです」

「小野寺さんは有能な社員なのよ。沢山の本の出版責任者も任されていて、とても忙しい方なんです…」


鍋の中身を鉢に移しながら、彼女は補足的な説明をした。

父親と兄はそんな彼女の言葉に返事もせず、じぃ…と俺を睨みつけていた。