「芽衣ちゃんがあんなことを言うのは、私が高齢になったせいね。どんなに口が達者でも、やっぱり歳には勝てないわ。若い頃のように体は動かないし、確かに根気も続かない。芽衣ちゃんの原稿がいつも遅く仕上がってしまうのは、大抵が私のせいみたいなもんだから……」


辛そうに眉をひそめせた人は、俺のほうに向き直った。
まじまじと顔を眺めた後、こんなふうに言葉を吐いた。



「時を待つのもいいかもしれないわ。…でも、若さは一瞬でしかないのよ。今この瞬間にも老いに近づいていってるの。そう考えたら、長いようで時間は短い…。一番いい時を逃してしまわないうちに行動を起こすのね。引っ込み思案な来未さんが、あなたに手紙を書いた時と同じくらいの大胆さを期待してるわよ!」



ポン!と二の腕を叩いて微笑まれた。
その笑みにどんな顔を向けていいか分からず、頬を引きつらせたまま顔を歪ませた。





小一時間後、津軽邸を後にして歩き始めた。

ポケットに忍ばせていた手紙を取り出し、封筒の裏に書かれてある住所を見つめた。



彼女の故郷へは飛行機で行くのが一番近い。
今からならまだ最終の便に間に合うかもしれない。



いきなり会いに行ったら驚かれるだろうか。

家族や息子はどんな顔をするだろう。

それからこの美しい文字を書いた人は、どんな表情で俺のことを迎えるのか……。



会って何を話す?

先生の漫画のことか?

息子の学校のこと?

2人の未来について?



(いや、そうじゃないよな……)