「あら?これは…」

その女子学生が、床をはき終え、畳の上(かるた部の部室の造りは、入り口付近は、下駄箱とロッカーが置かれてあるコンクリートの床。

それ以外は、練習場所として畳六畳のスペースがある)も掃除しようとあがった際に、一つのボールペンが転がっているのを発見した。

そしてそれを拾おうとした時、その様子が視界に入った亮が、いきなり大声でその女子学生に向かって怒鳴った。

「触るな!」

「キャッ!」

その怒声に、その女子学生よりもむしろ、練習に集中しきっていた美加が驚きの声を上げた。

勿論、怒鳴られた女子学生及び春子と礼士そして他のかるた部員達も、突然の事に驚き硬直してしまった。

そんな中、亮は更に、静かではあるが、怒りのこもった声でその女子学生に向かって言った。

「…反省の意を込めてであっても、そんなに頻繁に掃除しに来なくても良いので。

多野たえ子さん」

その言葉を受けて、硬直から解放されたかのように、今度はその女子学生、多野たえ子が亮に噛みついた。

「もう、いい加減にしてよ!

何でいつも、『あんただけ』私に対して冷たく当たるの!?

あんたに、何かいけない事したかしら?

教えてよ!」

そのたえ子の言葉に対して、すかさず亮は答えた。

「言葉に出していないだけで、ここにいるみんなは、あなたのした事に対して完全に許した訳じゃあないんですよ。

あんたみたいな奴が、未だに退部になっていない事自体が不思議なくらいさ。

…今すぐ、この部室から出て行ってくれ!

美加ちゃんの練習の邪魔でもあるから…」

眉間にしわを寄せて、不快そうな表情をつくる、亮。

そんな亮の様子を見てたえ子は、

「あの事と関係ないあんたが、何で…」

と、一言つぶやき、

「分かったわよ!」

と、ぷりぷり怒りながら、部室のドアを勢い良くバタンと開いて出て行ってしまった。

そしてみんながポカンとする中、まるで、たった今の出来事が存在しなかったかのように、亮は笑顔に戻り、

「さあ、練習の続きだ」

と、戸惑う美加に語りかけた。




奇術同好会の部屋の中、腕を組みながら、困惑の表情を浮かべる春子がいた。