(ど、どうします、礼士先輩?)

(どうしますって言われても、向こうはお開きにしたいみたいだから、帰るしかないんじゃ…)

春子と礼士が、先程までの、自分達に対するかるた部員達の歓迎ムードから一転、帰れムードを漂わせた事に対して戸惑っている所、突然、部室の入り口を誰かがノックした。

「入ります」

ギイ…と、扉が開かれ、一人の女子学生が入ってきた。

身長は180cm近くあるだろうか。部室内にいる部員の中でも際立って長身で、センター分けにされたショートシャギーの黒髪が、無表情に近い顔立ちと合わさって、どちらかと言えば整った顔が無愛想で冷たい印象を受ける。

彼女は、部室に入るなり、軽くお辞儀をすると、入り口付近を、ほうきとちりとりを使ってホコリを丁寧に取り除き始めた。

ぽかんとしながら、自分を見つめる春子と礼士に気がつくと、これまた愛想の感じられない能面のような表情で軽く頭を下げ、二人の立っている近くをほうきではきはじめた。

春子と礼士は、その女子学生の邪魔をしないように、いそいそと場所移動して、その様子を見守っていた。

(れ、礼士先輩?だ、誰かしらこの人…)

(さ、さあ…

ん、あれ?)

礼士は、亮と美加以外のかるた部員達も、自分達と同じくその女子学生の掃除風景をじっと無言で見守っている事に気付いた。

(因みに、かるた部員は、受験生の引退した三年生部員を除いて、一年生の亮以外は、同じく一年生の美加と残りの二年生の古賀理恵含む女子部員だけである)

そして、春子と礼士、亮と美加以外のかるた部員達がその女子学生の行動を見守る中、事件は起こった。