「他に答えてくれる人誰かいませんか?」
無反応。
しびれを切らした先生は、黒板に“愛”と書いた。
「正解は、“愛”という字を充てます。愛しと書いて、“かなし”と読みます」
そうなのか。難問じゃないか。
「でも、現代では愛しと書いて、“いとし”と読みますよね? それには意味があるんです。愛しいものがどんなものか分かる人!」
井上が手を挙げた。珍しい。滅多に発言しない井上が手を挙げている。
ということは分かったということか。
「井上くん!」
「大切なもの?」
井上、疑問形で答えてどうする。自信がなく、疑問形で答えてしまうのはよくありがち。
「そう! 大切な、という意味ですね。でも、大切なものほど、いつかは無くなってしまう。つまり、“かなしい”。だから、“かなし”と読んだのです」
「へぇー」
納得の声があがった。