「…でも、間違ってるよ。」

無理に絞り出した声は、震えていた。

「わかってる。」

清宮の悲哀の籠ったその言葉に、会話の間ずっと迷ってた事を心に決めた。

いつになく優しい清宮の背中に私は、頭を押し付ける。

「泣いてんの?神崎らしくない。」

「泣いてないわ。幾千もの善の命を平気で斬れるような〝悪者〟になろうとしているだけよ。」

瞳から零れ落ちそうな涙に気付きながらも、精一杯の強がりを見せるため、嘘を吐いた。

「そっか」

清宮も深くは追求してこなかった。

風をきって走るバイクが私の涙を乾かしていく。

私は、出来るだけ明るい声で清宮に提案する。

「ねぇ、山に着いたらさ、競争しない?山天狗の社があるのは、山の頂の方でしょ。だから、そこまで競争しようよ。」

「あぁ、いいよ。」

清宮の返事に安堵のため息を吐く。

すぐにでも揺るぎそうな決心を導いてくれるような強いものが欲しかった。

この勝負で私は、陰陽道神崎神社の一人娘としての魂を試すつもりだ。

それで、もし、私が勝ったら…

何故か背筋に悪寒が走り、身体が震えた。