躊躇いなく、クリスはその扉に太刀を振った。


扉は高い音を響かせ、やがてそれに亀裂が入り、分厚いそれは、いともたやすく崩れ落ちた。


発生した煙の立ち込める中で立ち尽くし、一本の刀で風を起こし、クリスは煙を掃う。


やがて視界に入った謁見の間には、悲惨な光景が描かれていた。


各国の顔とも言える名高い顔触れが殆ど屍となっていたのだ。


「…陛下っ!!」


“瞬光の魔女”ルーシャ・ディシディア=ヨーツンヘイム。


クリスが叫んだ先には若き現ミストラル王国女王にして十天魔女の長が、生き残りの人々の為に防御壁を展開し、防戦を敷いていた。


「クリス…よく来てくれましたね」


ルーシャの笑顔にははっきりと疲れが見えた。


目の前には大勢の兵隊。顔を隠し、手には血の滲む鈎爪。おそらく暗殺部隊だろう。


「どけよ」


向かって来る奴らを薙ぎ払い、クリスは両手の太刀を閃かせ、守るべき者の下にたどり着いた。


「よくぞ御無事で。教会からの遣いは?」


「ええ。彼が来てくれたのですが…それと同時にこの様なことが…」


「彼?」


辺りを見渡すと、一人の騎士が壁にもたれかかって動かずにいた。


「まさか…フェミル隊長?」


その男は、フェミル・クエスター。


オーダー第6部隊隊長で、相当な腕を持った騎士だった。


クリスは歯を食いしばり、敵を睨みつける。


その視線の先の暗殺部隊の中央には、葉巻を吸った、中年の男が立っていた。