一度ニルヴァーナに戻り、連合軍本部情報部に連絡を入れる。


通信中、女王ルーシャがわざわざ報告を聞いて労いの言葉をかけてくれた。そういう周囲の配慮を決して怠らない女王の統治する国家に所属する事を、クリスは時々心から嬉しく思う。


だが、女王は一言こう言った。


『兵器を手にする覚悟を』


重みのある言葉だ。


女王は自ら挙兵する事も、先制を仕掛ける事も好まないと言うのは、オーダーに所属していた頃から有名な話であった。


如何なる状況下に於いても、敵味方問わず、人的被害が出ることを極端に嫌う。オーダーの中にはそんな君主に批判をする騎士も居たが、殆どの騎士は仕える主が高貴な方だと心から喜んでいた。


クリスもその一人だ。


そんな女王に仕えた者自らが世界が急な事態に見舞われたからと言って、強大な兵器を手に入れる交渉に成功したと聞いた日には、複雑な心境になるだろう。


部下が言ったからとはいえ、その事まで気が回らなかったクリスは自分に少し嫌気がさした。


しかして当初の目的は“帝国と通商連合の癒着阻止”だった筈。にも関わらず、此処まで物事とは上手くいく物だろうか。


そう思っているとルーシャの声がノイズ交じりに聞こえてきた。


『クリス、中央大陸に戻りなさい』


『ヨーツンヘイムではなくて
 …ですか?』


『ヨーツンヘイムの東の大森林です
 神殿に帝国が侵入していると
 ディクセンから情報がありました』


レナ。小さな自称お姉さんの名前を久しぶりに聞く。


『了解しました』


『お願いしますよ、クリス
 現地にはアスカとジェイナが
 向かってます』


『わかりました
 彼女らと合流します』


『御武運を』


祈るようなルーシャの声を最後に、通信が途切れた。