「榎本さん、龍平と話した?」
雄介君は眉間にシワを寄せながら問いかける。
「始まる前には話した。精いっぱい泳いでくるって……」
「そっか。アイツ、もしかしたらこの試合にかけてたのかも。医者にはまだ無理だと言われてたみたいで」
「えっ?」
てっきりクロールなら泳いでもいいと言われていると思った。
「龍平、結構重傷で、最初から手術を勧められてたって。でもそれだと復帰までかなり時間がかかってしまうから、拒否してたみたいだ」
「そんな……」
「俺も今日知った」と悔しそうにつぶやいた雄介君は、膝の上の手を握りしめた。
「だから、この試合にかける意気込みは並大抵じゃなかったはず。これで結果が出なければ、もう手術しかないってわかってたはずなんだ」