いつもより下位の大会で泳ぐことだけでも屈辱だろうに、もしかしたら周りの選手に負けるかもしれない。

それでも、復帰するにはこの道を通るしかないのも事実。


「あ、長いから途中で寝るなよ?」

「寝ないよ!」


1500メートルは17分くらいかかる。
その間ずっと全力で泳ぎ続けるという過酷な競技。


「じゃ」

「うん」


カバンの中のチョコチップマフィンを渡そうとしてやめた。
終わった後、お疲れさまと渡したい。


わざわざ来てくれたことがうれしくて、頬が勝手に緩む。
やっぱり結城君を好きでよかった。


1500メートルはお昼頃。
観客はお昼ご飯を食べに一度席を立ってしまう人が目立つ。

そんな中、彼はスタート台に立った。


――ピッピッピー

結城君は自分の太ももをパンパンと叩いてから台の上に立ち、右足を引っ掛ける。