琴の初舞台


昼間に行われたが

大勢の客で広間が埋め尽くされた

緊張のせいかいつもよりぎこちなかったが

無事に披露が出来た




中庭で青空を見上げた君菊に声を掛けた


「よお また、帰りたくなったのか?」


土方が笑う


「もう、帰るとこないんどす」


君菊が笑う



「君菊 夫婦にならねぇか? 俺と…」

あまりにも突然で、予想外だった

ポカンと口を開け、目を見開き固まる


「おめぇ……今まで、俺がしてきた
口づけの理由とか、わかんなかったのか」

「まったく……その、あの
男はんは、下心でそういうことするって
聞きましたんえ!!」

「なんだよ…その変な情報
誰にでもしねぇ
君菊だから…惚れた女だからだ!!」


言ってからそっぽ向く土方が、やけに
可愛く見え、笑った


(土方はんに、こんな嬉しいこと言って貰えて、うちは幸せやな)



「うち、嫁ぎ先が決まってますのや
土方はんのお気持ち、嬉しいけど
うちは、戦に出る人をのん気に待ってる性分やないし、かといってもう戦いには
出たくないんどす
せやから、ずいぶん田舎ですけど
旦那様になる方もお優しい人やし
嫁に行きます」


精一杯の笑顔で、嘘をついた



(どうか、この嘘を信じて…)



空を見上げ、少しして土方が笑った

「幸せにな」


(もう、十分に幸せどす
土方はんのお気持ちを胸に旅立てるんどす
おおきに)


「おおきに」



心から幸せだと、とびっきりの笑顔で笑えた