山崎から町娘用の着物を借りて

姐さん被りで、顔をかくし

夕餉をこしらえた 君菊


「花!!うめぇ!!」

「おおきに」


大阪にいた頃〝花〟と呼ばれていたから

屯所内で花として、過ごす


夕餉の片付けも終わる頃


土方が君菊のもとへ


「あ? 何してんだ?」

「や、ここで寝るんかなって…」

「んな訳ねぇだろ!馬鹿!!」


土方の声に、通りすがりの沖田が来る


「どうしたんです?」

「コイツがここに寝っ転がってたんだ」

「え?こんな処に?」


男所帯で、あまり綺麗にしていない炊事場

その片隅の床に、丸く横たわっていたのだ


「花は、俺の部屋で休め」

「土方さんの部屋はね、平隊士が近寄らないから、安全なんだよ!」

「ほな、お言葉に甘えます」





土方の部屋で、布団を二つ並べて敷く


「まだ 寝えへんの?」

「俺はいつも遅えから、先に寝てろ」

「…ハイ」



しばらく筆を走らせて、チラリと振り返る


「何してんだ…?」

「へ?や、うちも眠たくないねん…」

「普段、仕事してんだもんな…
本とか読むのか?」

「うん!」

「だったら、山南さんとこで借りろ
山ほどあるぞ」

「はい!いってきます!」

元気に入り口まで行って、振り返る

「山南はん… まだ、起きてるやろか」

「心配すんな 灯りが消えてりゃ
また、明日にすればいい」

「そうやね」


(無理しやがって……)



土方は、見逃さなかった

君菊がいつもより元気がないこと

伏し目がちなこと



(さらわれて、怖かっただろう
人を斬って、辛かっただろう)



「起きてたか?って、そんなに借りたのか?
徹夜する気かよ!!」


襖を開ける為、一旦廊下に降ろされた本

およそ二十は、ありそうだ


「読んだことのないものばかりで、どれも
面白そうやってんもん」

「馬鹿だろ…」

「馬鹿ばっかり言わんでや」


山崎と同じ口調で、大阪言葉を喋る
口を尖らせて、すねてみせる

まだまだ子供だと土方の口元が緩む


「早めに寝ろよ」

「はい」





土方が仕事を終え、振り返ると

まだ熱心に本を読んでいた



「寝るぞ!」

「あとちょっとやねん」

「駄目!明日にしろ!」

「…ケチ」

「るせぇ」


灯りを消して、布団に入ると

机に向かっていたときの眠気がなくなった


「なぁ お兄ちゃん大丈夫やろか……」

「心配すんな」

「お客はん、怒らせてへんかな」

「お前と一緒で短気だもんな」

「なんや?土方はんは、うちのこと怒りんぼうやとおもてたん??」

君菊が、ガバッと起き上がる

(そんなに聞き捨てならねぇことか?)

「ばぁーか、冗談だ」


暗闇に目が慣れ、君菊の顔が見えると

ドキッ

(やべえ やっぱり惚れてんな…俺)


「なら、ええ!!おやすみなさい!!スー」


(寝付くの早っ!!)