「晋平さん、俺、なんか不味いこと言いましたっけ?」



救いを求めるように隣を見るルキ。



晋平さんは「さあな」と言いながら、じっと俺の目を見つめたままニヤついた。


ツアー前日。最高に気持ちが高ぶる日に、どうしようもなく苛立ちがつのる。



「用がそれだけなら帰ります」



席を立つ俺に、ルキが慌てる。



「待ってくれ!お前がソロとしての地位を高めれば高めるほど、俺の居場所がなくなるんだ。
『あの七倉ハルの曲をパクったクズ野郎』だと」



ルキは煽るように目の前の酒を飲み干すと、身を乗り出した。



「どこに言っても罵られ、ハブられる。マッシーが顔を効かせてる神奈川や東京のクラブには入れてももらえない。
俺は本気で売れたいんだ。七倉、お前みたいに。全国ツアーして、CD売りまくって、セルアウトの仲間入りをして、いつまでも泥臭いインディーズでもがいているやつらを、高みから見下してやりたいんだ」