「ほら、早く!今だよ!」

「う、うん」


美月に背中を押されて、私は頷いた。


心臓がバクバクしてる。
頭も真っ白だ。


駆け足で彼に近寄るけど、中々声が出て来ない。


「あ、お、お、お」


小野君。たった一言なのに、すんなりと言葉になってくれない。
ぎゅっと目を瞑り、言おうと口を開いた瞬間。


「大ー!」


小野君を大声で呼ぶ声に私の声はかき消されてしまった。
ああ、小野君の友達がきてしまった。

一人だったのに。
話しかけるチャンスだったのに。


はあっと溜め息をつき肩を落としていた私に、声をかけてきたのは。


「あれ?君、確か」


まさかの小野君の友達だ。
その友達は茶色い髪の毛をサラリと揺らして小首を傾げる。


「昨日、美月といた子だよね?」

「美月?そうですけど」

「やっぱり。美月とよく喋るからさ」


彼はそう言うと、ニコっと素敵な笑顔を見せた。
美月が言ってたよく喋る友達ってのは、この彼の事だろうか?


そう思って、後ろを振り向くけど美月はいない。
何でいないの。誰かに呼ばれたのかな。