「来るの早いね」

「うん。緊張して心臓出そうだよ…」

「あはは。ボタン返すだけでしょ?」

「うん、い、一応裁縫セットも持って来たんだ」

「え」

「だって、ボタンだけ返されてもって思わないかな?え。裁縫セットとか、迷惑かな?」

「ううん。そこまで私は頭が回らなかったから、偉いなと思って」

「そ、そうかな」


あははと私は頭を掻いて笑った。
少しでも話せるきっかけになったらいいなという、ヨコシマな気持ちがあったけど言えないや。


入学当初から、小野君の事が気になってたけどクラスが違うし、あまりにも接点がないから諦めていた。
好きとか、そんなのはないけど。



「あ、小野いた」


美月がそう言った瞬間、私の心臓がドクンっと飛び跳ねる。
もう登場?
ドキドキしながら後ろを振り向く。


見覚えのある金髪。
教室から出てきた彼はどこかへ向かおうとしているらしい。


その背中がどんどんと遠くなっていく。
折角ここまで来たのに、話せないとか。