そう、歩と呼ばれた彼が言うと小野君が私に視線を移す。
それから、遠慮がちに口を開いた。
「……そうなの?」
「えっと、あの」
「……」
「……」
言わないと。
ボタン。ボタン。
私は動揺しながらも、どうにか声を出そうとした。
「ぼ、ボタンを!」
「ボタン?」
小野君は制服の前を開けている。
ボタンがない所為で、前を閉められないのだろう。
私は慌ててカバンからボタンを取り出すと、彼に広げて見せた。
「昨日、ボタン!と、取ってくれたから!
あの、ありがとうございました」
それから、思いっ切り頭を下げた。
心臓バクバクするよ。
でも、言えた。ありがとうって言えた。