「傘忘れたの?」
返事がない。
あ、と思って今度は名前を付けて尋ねた。
「うん」
「急に降ってきたもんね」
「そうだね」
「…それじゃあ」
「うん」
若干錆び付いていて開きの悪い傘を無理に開く。
校門を出て少し歩き、気掛かりになって後ろを振り返ると、柏木くんが先程と同じ場所に気怠そうに立っていた。
少し迷ってから踵を返す。
柏木くんの元へと一直線に歩いていく途中で視線が交わったが、すぐに興味なさげに逸らされた。
彼の目の前で足を止めてじっと見詰めてみる。
それでもなおこちらに視線を合わせるどころか、柏木くんは私を通り越してどこか遠くを眺めている。
ふと好奇心が沸き起こった。
果たしてどこまで距離を縮めたら、柏木くんから存在を認識してもらえるのだろうか。