どんな疑問を投げ掛けても、柏木くんの答えは一定にして曖昧なものだ。


執拗に質問を畳み掛ける私を鬱陶しそうに見たりはしないけれど、内心では面倒だと思っているから適当な回答ばかりをしているのだろう。



今はまだ辛うじて話に応じてくれているが、いつ反応を示さなくなるかも分からない。


挨拶以外で必要以上に話し掛けるのは控えるべきかと思い始めた日の、放課後のことである。



天気予報では予告されていなかった雨がざあざあと降っていた。


教科書やらプリントやらがぎゅうぎゅうに詰め込まれた鞄を漁り、底の方から折り畳み傘を探り当てる。



カバーを随分前に失くしたきりなので、傘本体についた皺が目につくが、使えないことはない。



下駄箱で靴を履き替え、昇降口を出たところで傘を持たずに立ち尽くす少年の背中を見付けた。


やや癖の付いた、錆色に近い茶髪が湿気に触れてしっとりと下がっている。



背後から近付いて横から覗き込むと、見覚えがあると思った通り柏木くんだった。