「柏木くん」
「何」
名前を呼ぶと反応を返してくれるところを見ると、やはり私の声が届いていない訳ではなく、話し掛けられているのが自分であるとは思っていなかったようだ。
「何読んでるの」
もう一度同じことを問い掛けてみる。
柏木くんは視線を本に返し、再びこちらを見た。
「本を読んでる」
「え?」
「本」
「あ、ああ、うん、私の言い方が間違えてたね、何の本を読んでるの?」
「さあ」
「ん?」
さあ、って。
さあ、って何だろう。
本の内容の説明まではいかなくとも、タイトルくらいは教えてもらえるものだと思っていたから、予想外の返答に戸惑った。