下の喧騒がおさまるのと同時に静馬の携帯電話が震えた。

「なんだ」
『若、そろそろお時間ですが』
「今行く」
『お待ちしております』
「…あ、富田」
『なんでしょう』
「今このビルの横から出ていったダークグレーのセーターの男、見えるか?」
『ええ、なにやら争っていたみたいですが』
「そいつ、下の奴らに見張らせとけ」
『…わかりました』

電話を切る。
静馬の口角がゆっくりと上がり、その隙間から煙草の煙が漏れた。

久しぶりのこの感覚。
それはまるで、新しいオモチャをあたえられた子供のようで、しかし、これから始まるこの関係が今後静馬を苦しめる事になるとは想像もしていなかった。