「…もしもし」
『…白井さん?』

「…はい、そうです。先程は失礼いたしました」
『いいえ、私も突然電話したので』

…相馬と言う人物を直接見た事はない。だから、どんな容姿なのか、雪は知らない。だが、耳に届く声は、低く優しい声だ。

「…あの、私の連絡先はどこで?」
『…白井さんのお母様から教えていただきました』

「…そうですか。…今回はどう言ったご用件で?まだ、答えも出していないのですが」

『…そうだろうと思いました。ですから一度、お会いしたいと思いまして、連絡しました。今日から一週間は東京の旅館に仕事できてるんです。明日は、日曜ですし、会っていただけませんか?』

「…」

『…白井さんのご実家の旅館の経営状態も、お教えしておきたいので』

「…そんなに危ないんですか、うちの旅館?」

雪の質問に、受話器越しに、相馬の溜息が聞こえた。

『…電話では、言いにくいのですが』

その言葉だけで、実家の旅館が、どれ程倒産の危機にあるのかわかってしまった。

「…分かりました。明日の昼一で、そちらにお伺いします。よろしいですか?」

『もちろんです…お待ちしております』


そこで電話は切れた。

…雪の進むべき道は、一つしかないのか?

雪には弟がいる。冬馬と言う、まだ大学2年の。冬馬は、うちの旅館を継ぐために、今勉強中なのだ。冬馬の夢でもある旅館を潰すわけにはいかない。

…明日、雪は、進むべき道を選ばなければならなくなった。